「成功は一日で捨て去れ」

今をときめくユニクロの創業者にして社長の柳井氏の本である。池田信夫氏が推奨しているので読んでみたのだが、やはりというべきか、あまり得るところはなかった。例えば、中国であれだけの品質の製品を作らせるのは、並大抵のことではない。その秘訣なら、是非知りたいが、読めばまねできるようなノウハウは書いてないのである。

確かに、本書を読むと、拡大戦略にせよ、失敗と見極めた事業からの撤退にせよ、氏が果敢に実施したことが見て取れ、その決断力は大したものだと思う。しかし、決断の正否は、本当のところ、事前には分からないのだ。失敗と見極めたのが早すぎたかも知れなかったし、拡大は無謀な賭けであったかも知れなかったのだ。決断の正しさは、結果を見て判断するしかない。正しい決断をしたが、会社はつぶれた、などということはありえない。決断が結果的に正しかった者の率いる会社が拡大し、経営者は、カリスマとしてもてはやされる。うまくいった者が、結果的に名経営者とされるだけなのだ。成功者の本を読んでもほとんど役にたたないゆえんである。

お金儲けの神様と謳われた邱永漢氏のどの本であったか忘れたが、氏が経営コンサルタントとして、長年何人もの経営者と会ってきた経験について書いてあった。見識や人柄が立派な経営者の会社が赤字であったり、これはどうかと思われるような人物が経営する会社のはぶりが良かったりすることが、しばしばあったという。

結局、経営者の人物ではなく、その時代にあった商売をしたものが成功する、というのが氏の結論であったと思う。身も蓋もない話である。が、世の中なんてそんなものかもしれない。中内氏は、ダイエーをあれだけ大きくしたが、最後には破産させてしまった。ヤオハンもしかり。そのような轍を踏まないためにも「成功は一日で捨て去れ」と自らを戒めているのだろう。意地の悪い言い方かもしれないが、だからといって、氏がそうならないという保証はないのだ