歌舞伎な午後

一昨日の午後、いつもの床屋にでかけた。かなり伸びてきたので、本当は、先週のうちに行っておきたかったのだが、なにかと用事があって、連休にずれ込んでしまったのだ。いつものように、あれこれ四方山話をしているうちに、どういうきっかけだったか、歌舞伎座の建て替えの話になった。以前、近所に住んでよく通ってくれた客が、20年ほど前に引っ越して、歌舞伎座の裏手に喫茶店を経営しているという。その人が、テレビのニュースに出てきたそうだ。そんな話から、歌舞伎のどこが面白いのでしょうねという、まあよくある質問(FAQ)になったのである。

高校生の時に、授業の一環で歌舞伎見学にいかされたが、ほとんど寝ていたという。そもそも何を言っているか、なにをやっているか良く分からない。あの独特のセリフ回しも、大いに不自然、奇妙奇天烈である。真にごもっともである。しかし、そのわけの分からないセリフ回しが、心地よくてたまらなくなるのである。私は、特に歌舞伎通というわけでもなく、年にせいぜい2、3回行く程度である。それでも、歌舞伎座に行くようになってから30年近くがたつと、さすがに歌舞伎のよさが身に染みて感じられるようになる。

まず三味線の音がチリトテチンと響くと、ああ日本に生まれてよかったとしみじみ思う。贔屓の役者が、いい場面、盛り上がったところで見得をきめると、○○屋と声をかけたくなる(やりませんけど)。きらびやかな衣装を見ると、いいなあ、着てみたいなあと思うし、清元や常磐津連中の豪華な演奏にのったあでやかな舞姿を見ればうっとりする。

床屋のオヤジは、サッカーファンだという。サッカーが好きな理由は色々あるかも知れないが、そんなことは、ファンでない人間にはよくわからない。ドリブルのたくみさ、鋭いパスが決まったときの心地よさなどあるかもしれないが、いいと思わないものにとっては、歌舞伎役者の大仰なせりふ回しと大して変わらない。何をもっていいと思うか思わないか、その辺がどう転んでいくかは、その人次第というしかないのではなかろうか。

ともかく、関心があるなら見に行ってください。縁があれば、気に入るでしょう。初めての人が見ても結構面白い演目もあります。そういった敷居の低いところから入るのが手ですよ。などと、連休の最中、客もなく暇なオヤジを相手に、おつむの方は一丁上がりとなった後もしばらく、なけなしの薀蓄のたれながしとなったのであった。