エジプトの新しい接着剤

チュニジアで、フェイスブックツイッターを媒体とした、あたらしい形の「革命」が起きたと思ったら、今度はエジプトに飛び火した。元々火種はあったのだ。


私は、25年ほど前、3年間カイロに駐在していたことがある。そのころは、今と違って石油価格が大きく下落し、リビアのテロにより観光客が激減、景気は急激に悪化し、踏んだり蹴ったりの状況であった。大学をでても職がないという若者が大勢いた。政府は、公務員の数をやたら増やして吸収しようとしが、十分な給料を払うこともできず、兼職がむしろ奨励されていた。事務所の運転手は、高校かどこかの体育の先生であったが、とてもそれだけでは生活できないので、タクシーの運転手をやっていたそうだ。


ある日政府のオフィスに行くと、交渉相手の担当者がいない。どうしたのかと別の人に聞いてみたら、サウジアラビアに出稼ぎにいったという。2、3年で帰ってくると、また元の職場で受け入れてくれるというのだ。公務員が多すぎて、出稼ぎに行ってくれる方が、政府にとっても都合がいいらしい。


当時から不満はたまっていたのである。そういった不満をかかえながら、イスラム過激派に加担するものもいたとはいえ、あくまでも少数にとどまり、ムバラク政権は安定しているかに見えていた。ところがここにきて、ついに爆発した訳だ。


アラブ人は、しばしば、砂漠の砂に例えられる。個々人がばらばらで、強い力で握っていないと一つにまとまらない。だから、独裁もやむを得ないのだ、といわれていた。ところが、ツイッターフェイスブックといった新しいツールが、ちょうど、砂を固める接着剤のような役割を果たしたようだ。ただ、この新しい接着剤は、可燃性の物であるかも知れない。爆発には適しているかも知れないが、長い期間、安定的なまとまりをもたらすものであるのだろうか。独裁の後に、ただ混乱では、もともこもないのである。