中年クライシス

彼の話を聞いていると、彼の不満にはそれなりに理由があることが分かります。私が彼の立場であったら、恐らく同じような不満を感じていただろう。しかし、その不満を抱かせる事実を解釈する仕方は、かなり異なっていただろうと思います。

彼が問題だとするところを、私は、部下の無能さではなく、今までやってきた仕事と現在やっている仕事との性質の違いに求めたかもしれない。仮に部下が実際に無能であったとしても、それはたまたまそういう人間が配属されただけ。全員が有能な会社などありえないと思っただろう。そう言えるのは、私は、統合前のB社に出向していたことがあるからです。彼が問題とすることから見えてくるものは、B社の問題というよりは、彼自身のかかえる問題の方ではないか。彼は、思い通りに行かない人生に、大いにとまどっているように思えるのです。

河合隼雄氏に「中年クライシス」という著書があります。氏によれば、そもそも「中年において、人間は大切な人生の転換点を経験」する。特に、現代は、社会の変化が激しいので、「何かひとつの考えや方法を確立して、それで一生押し通していくことはできず、どこかで何らかの転回を経験しなくてはならない」。そのような観点からすると、彼の問題は、B社の社風などといったものではなく、彼自身の、中年クライシスではないかと思えるのです。私のいわゆる「コペ転」も、実はその中年クライシスであったと、そう思っているのです。